虚空から、何の前触れもなく音が生まれた。

ストン、と。重厚な扉の前に出現、着地したのは燈色の中国服に身を包んだ男、戎呼(カイフゥ)だ。

断続的な振動が靴越しに身を震わせ、古城全体を軋ませるような重い衝突音が鼓膜を軽く叩く。それは戦闘の余波であり、未だ続いていることを如実に教えてくれる。その間隔は徐々に狭まり、確実に小さくなっていた。

瞬間転移で距離を隔てたからだけではない。戦闘自体が着々と終わりへと向かっているのだ。

 

「まー、即興ですし。こんなもんでしょーけど。それをそのまま報告しちまうのも…………気が乗らねーですね」

 

祝詞の蹴りを受けた肩を軽く叩いてから上下させる。まだ残っている痺れを掃うように。

五年の歳月を平和ボケした日本で過ごした二人の超能力者。当然のように鈍っているはずの実戦勘。目算では、多少の手傷と能力による消耗くらいは期待していたものを、見事に裏切られた。しかも、あれでは焼け石に水どころか、絶頂期の感覚を刺激した分、逆効果の感さえあった。兄貴は喜びそうだが、大局的に見ればそれこそ眼も当てられないというものだ。

唯一収穫といえるのは、二人の現時点での強さが測れたこと。それでもまだ不確定な要素が多すぎる。が、ないよりはマシだ。集団戦において情報の(もたら)す恩恵はとてつもなく大きい。

もっとも、如何せん測る相手が逃げ腰では二人も全力では戦わない。勝負ですらなく、殆ど処理という作業に近い戦闘行為。祝詞と輝炎が本気で戦う相手など自分を含め、限られている。それはある意味で、二人が五年前から変わっていないということだ。依然最悪の敵として、だが。

 

「別段気にしちまっても意味ねーですね。だいたい、俺の責任じゃねーですし」

 

開き直って前を向く。中途半端な気分を代弁するかのように、観音開きの扉には鍵がかかっていた。playroom(遊戯室)と銘打たれたプレートに皮肉の混じった苦笑を浮かべながら扉の向こうをイメージ。壁をすり抜けたと見紛うだろう滑らかな転移で通過する。

濃く暗い室内は石畳の連続から一転、高貴な調度を匂わせていた。見づらくとも間取りは全て記憶している。

パーティには手頃な広さのダンスホールが面積の四分の三を占め。奥にはカードに興じる為の円卓や場違いなグランドピアノ。充実した設備がかえって虚しく感じるのは、使う者が極端に少ない為だ。所々にクモの巣が張ってある辺り、まさに曰くつきの古城。これから起きる殺人事件の舞台に、実に相応しい。

薄っぺらい笑いを張り付かせたまま、埃の浮いた毛の長い絨毯に更に一歩踏み込んだ瞬間。

 

 

アハッ♪

 

 

ただでさえ暗い視界を何かが横から遮った。

反射的に半歩後退した戎呼の鼻先を、小さなスニーカーの(かかと)が掠める。さらにもう一度、同じサイズの靴が眼前を流れ、風が鼻を(くすぐ)った。ピシッピシッと軽い音をたて、光る小さなものが何度も腹に当たった。

ぼんやりと光る蛍光色が連続して闇に軌跡を残す様は流星群に似ている。虹のような光は回転し、その動きに吊られて衣服が小柄な身体に巻き付いて流れる。

目が慣れるにつれ、その人物が着ている白いロングコート状の服には、様々な色彩のキーホルダーがアクセサリーのように等間隔でついているのが解った。

絞るような螺旋の中心地点は逆さまになって回るブレイクダンサーだ。

 

ハッ♪

 

回転を止め、逆立ちの姿勢のまま片手首の力だけでリズミカルに跳ねる人影。ジャラジャラと多くのキーホルダー同士が擦れる音と、MDからと思しき音楽が耳につけているイヤホンから漏れている。

掠った鼻を揉み解しながら、暗闇以外の怪訝に目を凝らす戎呼と踊っていた人物の目がバッチリ合う。彼の人物は気さくに手を上げて、

 

オッス」

 

愛嬌のある長い犬歯が覗く口で、ベビーフェイスがニッコリと笑う。半開きの瞼に隠れたカナリア色の瞳の周りには濃い隈のようなペイントがベットリ塗ってあり、空いた片手で落下を押さえているベレー帽から緋色の髪がまるで触覚のように垂れていた。

 

(おつ)ーッ♪ お疲れかい?

 

この老人のようなガラガラ声さえ除けば、駅前で見かける不良少年に、まあ、なんとか、見えなくもない。

戎呼は屈みこんで視線を出来るだけ近づけた。困ったように鼻を擦って、

 

「危ねーですね。何で扉の前(こんなところ)で踊っちまってんです? ああ、最近ハマってるヒップホップでも聞いてんですか? でも、踊る時は周りの迷惑もちっとは考えて―――つーかね……あのですね? こんなこと本当はですね? 言いたくはねーんですけどね? ここは実際ダンスホールなわけですし、キレる十代だからって怒らねーでくださいね……俺の声、ちゃんと聞こえてますか?」

 

うーん、うン、うンっ♪ いェイいぇーイッ♪

 

全然聞いてねーですから、俺の声。そんな言葉を飲み込み、薄闇の向こうに居るだろう兄の下へ向かうことにした。

 

「邪魔しねーんで。どーぞごゆっくりってなもんです」

 

おkっ♪

 

ひらひら振る手に、意味不明な声が返ってきた。そもそも返答かどうかも怪しいが。

絨毯の埃を巻き上げる猛烈なヘッドスピンに咳き込みながら遠ざかり、部屋の中央に歩を進める。

 

「来たか……」

 

静かに瞼を開き、禅を解いたのは兄の(ツァン)海鴻(ハイフォン)だ。背後には満タンのポリタンクが大量に積み上げられ、武器となる水をこれでもかと用意する念の入れよう。一見間の抜けた背景の中、海鴻だけが研ぎ澄ました刃のように鋭い存在感を放っていた。静かな内面を現す曇り無い藍色の胴衣に身を包み、鋭い眼でこちらを見上げてくる。その内心を推し量るわけではないが、今日は何処か喜びを含んでいるように見える。双子だからこそ分かる些細な変化だが。

 

「二人とも元気でしたよ。予想より(なま)ってなかったか、俺らの人選が甘かったか、どっこいどっこいですけど」

 

「ふ……そうだろう」

 

「……だろうって、兄貴ね。負けちまってんの俺らの下っ端なわけですから」

 

「それもまた戦場(いくさば)の常。散って逝った武士(もののふ)達に、全霊で報いることだけが我らに出来ること……」

 

あ、今笑った。絶対に笑った。普段はニコリともしねーくせに、戦場では活き活きとしちゃって、まったくこの兄は分かりやすい。

本人は自覚してないだろうが、口の端が僅かに持ち上がったのを戎呼は見逃さなかった。

 

「ストイックっつーか、レトロっつーか。この歳で頭固くなっちまいましたか。まぁ、俺も見習って御悔(おく)やみの一つでもしましょうかねぇ」

 

自身も意地の悪い笑みを浮かべて、座禅を組もうと隣へ寄ると。

 

 

「―――解りきった結果には、くれてやる言葉も無い。祈るだけ、面倒というものだ」

 

 

先客が居た。というか、出た。

 

 

 

 

闇が変化するというのは実際に感じると気味の悪いものだ。いきなり、人型の殺気の塊が死臭を纏って傍に立っているのだから。

我知らず戎呼は息を呑み、自分の能力も似たようなものかと考えつつすぐに整えた。

 

「……旦那。気配消すのはいいんすけど、現れる時は一声あってもいいじゃねーですか……心臓に悪ぃ」

 

「兵の損失など、特に問題ではない。いくら頭数を揃えたところで所詮は有象無象の群れ。チリは積もっても、クズはクズでしかない……寸時も持てば充分だろう。少なくともアレが終わるまではな」

 

戎呼の抗議を無視したラグルが扉の方を視線で指す。

 

ハイ、はーイ♪ って、ウがぅッ!? はなっ、今鼻打った! ちくしょう! 痛いし、ムカついた! もっかい、やってやる! 今度は邪魔すんなよ!

 

フリーズが崩れて顔面を床に打ちつけた影が帽子の埃を払い、また器用に回り始める。よく見れば今度は肩を支点にしたパワームーブ、ウィンドミルだ。確かに上達しているようだが、今練習する意味はまったく無い。

 

「会話になんねーんで。アッチに振らねーでくださいよ」

 

「ふん」

 

黒白の長髪とロングコートを翻し、無表情の殺人鬼は再び闇に帰ろうとする。

 

「統地卿。前言を撤回して頂きたい」

 

「何……?」

 

「げ……」

 

傍目にも分かるほど呻いてしまった戎呼の見やる先。倒されたいくつかのポリタンクから水がコポコポと流れ出していた。

 

「仮にも我らに付き従いし同志を屑呼ばわりとは……余りにも敬意が無さ過ぎるのではないか?」

 

「ふーっ……弱者を敬って何が得られる。奉れ、縋われ、結局は足手纏いが増えるだけだ。違うのか?」

 

叱咤にも似た海鴻の言葉に、同じ赤き雪の先達ラグル・ビュートは視線を合わせるでもなく、虚空に空ろな瞳を向けたまま溜息をついている。戎呼を挟んで海鴻と対峙する行為がひどく億劫そうだ。

 

「人を超越した者の猛き魂は、強弱の区別なく尊敬に値する!」

 

「魂などで勝てれば、誰も苦労はしない。貴様のように、敗北もな」

 

また始まっちまいましたよ、と天を仰ぐ戎呼は腫れ物に触れぬよう、慎重に距離を取った。

状況と立場もろもろを置き去りに増していく険悪な空気に巻き込まれたくないからだ。

 

「例え貴公の言葉であっても、それ以上の侮辱は許されるものではない!」

 

「貴様、誰に向かって物を言っている。気でも違えたのか」

 

「正気を失ってなどいない。私は常に、己の信念と誇りに忠実だ。もっとも、鬼に堕ちた貴公に分ってもらおうとは思わないが」

 

「いい加減に耳障りだと理解しろ。そして、二度同じ事を言わせるな。俺は貴様のように気が長くないんだ。それとも、まだ手間をかけさせる気か?」

 

「相容れぬのならば……それも()む無し!」

 

起伏の乏しい言葉の羅列が海鴻の怒りの沸点に触れた。同時に、執着じみた信念はラグルを苛立たせるに充分だった。

 

「……力量を()れ。小僧」

 

ポツリと、感情を籠めない声をその場に囁き置いたまま。

次の瞬間。ラグルの気配が消えた。

 

 

―――ガギンッ!

 

 

という、硬質の破砕音だけが部屋中に響き渡った。

背後に振り向き、薙ぐように振られた透明な水の刃を、隆起した石畳が絨毯を突き破る勢いで下から弾いたのだ。

硝子の様に砕けた刃が雫に戻り、返す刀で再び形を取り戻す。

 

(せい)っ!」

 

海鴻の足元から咆哮ならぬ飛沫を盛大に撒き散らす水の槍群が現れ、闇の中の漆黒のコートへと殺到する。そして、それすらも自ら追い抜く速度で海鴻が疾駆。手にした双龍刀が左右から、太くも鋭い蛇の群れが上下から標的を挟み込む。回避不可の速攻だ。

ゆらゆらと大量のベルトを引き摺り、音の無いステップを踏み後退しながら、ラグルがまたつまらなそうに息を吐いた。

 

「……ふー」

 

その痩身痩躯が鉄壁の牙に包み込まれた。

停止の連続というエンジンブレーキのような手応えが地面を伝わり、地鳴りとなって海鴻と戒呼を震わせる。

絨毯に包まれた石畳の床がからくりのバネのような動きで持ち上がり、水の槍を受け止めていく。いや、ハリネズミの体表の如く、触れる物全てを貫き撃墜していく。

鋭角を崩さない牙は、蛇の腹を狙う形で水を千切り飛ばしている。

限り有る残弾が手元に帰らないのなら、残された道は掌中の刀二本による直接攻撃のみ。それは海鴻自身も計算していたこと。

 

「盾もろともに貫く!」

 

「不可能だと言った。二度目はない」

 

二刀を一本の槍に凝縮し、ただ一点に穿つべく海鴻が突撃する。それを迎え打つ牙もまた密度を増し、杭の様な先端を向けた。

相互の衝突が、次なる轟音と地響きを立てる―――はずだった。

 

 

「「!?」」

 

 

扉を蹴破った影が蒼白の燐光を纏って薄闇を駆け抜けた。

 

 

「部外者だが。管理職に就く者として言わせて貰う」

 

 

網膜に射し込む光が、踊るように書き込む。

 

 

 

      ―― 自然は本質へと回帰する

 

 

 

水が雨の様に零れ落ち、牙が風化してただの土くれへと変わる。二つの崩れる音の中心で、その声はハッキリと聞こえた。

 

同僚(なかま)は大切にしろ。それが組織の、最低限のルールだ」

 

射程半径十メートル。切り取ったような自己領域の中に悠然と、最弱のAランク異能力者が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界(セカイ)に向けて(ウタ)(ウタ)

 

第七章『愚者の宴』(Last lost festival)

 

 

第五十話 過去の継承

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

割って入る形で突然現れた乱入者に、ラグルは静かに灰色の瞳を向けるだけ。表情は欠片も崩れない。

海鴻は残りのポリタンクを全て切り裂いた。溢れた液体は絨毯に吸い込まれることもなく、粘性を帯びた水銀のように海鴻の足下に集まっていく。

一人、侵入者に逸早く反応した戎呼は短刀を逆手に構えたまま、祝詞の背後を取っていた。

 

「ワンパだって言ってんだろ」

 

振り上げられた刃を素手で掴み高熱で溶かしたのは輝炎だ。祝詞はそちらを見てすらいなかった。

 

「ひゅーっ、流石。お節介の無駄遣いしちまってますね! そういうとこがムカツクってんでしょーがよ!!」

 

「言うじゃねーか。俺もテメエのいちいちチョッカイ出してくる(こす)いやり方がムカツいてしょーがねーよ!」

 

まず二人が動いた。

戎呼が懐に仕込んでいた短刀を自らの手に転移させると同時、地面と輝炎を蹴って空へ距離を取った。それを腹筋で弾く形になった輝炎は野蛮な笑みを浮かべ炎を両足で爆発。爆ぜる勢いで宙へ追う。

その行く手を巨大な水柱が遮った。その頂から水滴と共に落ちてきた男の刃と炎の拳が交錯する。

 

「弟の教育がなってねーなぁ、蛇野郎!」

 

「愚弟の非は認めよう。その憤りもこの身が受けよう。だが、敵を屠るという到達点に於いて、我ら兄弟何等変わらないことを知れ。私は常に敬意を払うだけのこと。消え逝く気高き命に、鎮魂の祈りを込めて……!」

 

全身で触れた水が剣気を纏って持ち上がり、鎌首擡げた無数の蛇となって獲物に襲い掛かる。それを両手で鷲掴みにした輝炎を、双子の刃が双方から狙う。

 

「揃いも揃って、面倒くせぇんだよテメーらは!」

 

ジュっと、のたうつ水の蛇達が一瞬で蒸発した。海鴻が反射的に全身を完全な球形の水で包み込む。

輝炎が空いた両手をそれぞれに向け、

 

「火加減は無しだぜっ!!」

 

 

―――ボォォオオンッ!!

 

 

手のひらから放射された炎の(あぎと)が、二人の身体を軽々と呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

祝詞の視界の隅に、無傷の戎呼がフッと現れた。焦げた臭いだけを残し、再び姿が消える。

戎呼が炎を振り払えたのは瞬間転移の特性のおかげだ。空間を渡る際、自身へのあらゆる干渉を受け付けない。自らつけた加速等が消えるデメリットもあるが、能力影響下からの離脱には最適の力といえる。

再び、金属と肉体がぶつかる衝突音と、水蒸気爆発の余波が周囲に満ちる。

 

「…………」

 

うって変わり、祝詞とラグルの対峙は静かに続いていた。

共に周りの雑音をシャットアウトし、互いの一挙動に即座に対応できる体勢のまま視線をぶつける。

能力の射程を保ちながら、祝詞がゆっくりと動いた。左手が持ち上がる。しかし、そこに在るのは無骨な自動拳銃ではない。

一枚の金貨だ。

あまり見慣れない、フィレンツェのフローリン金貨。それをラグルへと放る。

 

「影森からだ。お前がいつも聞く耳持たないから、返すに返せなかったらしい。捨てるなよ」

 

受け取った男の性格を読み、釘をさす。

 

「持っておいて害はないだろう?」

 

「……ふん」

 

コートの懐へと弾くようにコインが入ったのを確認。本題の為に一歩前に出た。

 

「また何人も殺したらしいな。近づくだけで気分が悪くなりそうだ。出来ることなら会いたくなかったよ」

 

「そう言うな。待ち侘びた瞬間という奴だ……感慨は、特に無いがな。貴様が生きている必要も既に無いな。死んでもらうぞ、“既成改変”」

 

小さく息を吐き、祝詞はホルスターからソーコムピストルを取り出した。

ラグルは無造作に両手を下げたまま、向けられた銃口の奥だけを見ていた。

 

「それがドレットを殺した銃か。撃たれる前に……俺は貴様の腕に牙を突き立てる」

 

「……変わっていないな、“統地卿”。いや、変われなかったと言うべきだな。あんな手紙で“赤き雪”の言葉を贈ろうとも、僕はお前に嫌悪はしても畏怖しない。今も昔も、お前は怒りを誰かにぶつけたいだけのただの犯罪者。恐れるまでもない、ただの殺人鬼のままだ」

 

「ふーっ……そんなに俺を怒らせたいか」

 

疑問とも確認ともつかない起伏のない声音がボイスレコーダーのように流れる。

 

「変わる必要など無い。これが俺だ。これが俺の役目だとなぜ理解できない。これだけで俺は一生を生きてゆける。充分に殺し続けてゆけるのだ」

 

「そうか……とても残念だ。こんな時、ドレッド・ハーネスならきっとこう説くだろう」

 

祝詞の眼が細まり、焦点が遠くに向けられる。銃口が剣呑な光を放った。

 

 

「それでは、お前が救われない、と」

 

 

―――タンッ!

 

 

銃声にコンマ一秒も遅れることなく、ラグルは地を蹴った。

小刻みな跳躍で即座に距離を取った影に、追撃の銃弾が間断なくばら撒かれる。

照準の中央に捉えた時には既に大地が持ち上がり、牙を剥いた後だった。

 

「俺に―――」

 

「っ!」

 

「―――殺し以外を期待するな!!」

 

石塊(いしくれ)が曲がった針のように捲れ上がり、波濤(はとう)の勢いで祝詞に襲い掛かった。この大きさでは受け切れない。避けきれない。

即座に下した決に従い、書き慣れたルールを展開する。

 

 

 

      ―― 人と異なる能は無い

 

 

 

土砂となった元床だった物を避け、闇へ消えるラグルを銃口で追う。再び指に蒼光を宿す。

だが、

 

「横槍とは……まさに無粋の極み!!」

 

「コッチはガチで戦ってんだよっ! 邪魔すんじゃねぇ!!」

 

異能力を強制解除された両名のクレームとともに水の槍と火の玉が飛んできた。

銃身で槍を逸らし、火の玉を靴底で蹴り弾く。

 

「仲が良くて結構。でも、今のは射程内にいたお前達の運が悪い」

 

「じゃあ、これもテメエの悪運だな!! オラッ!!」

 

「ばっ!?」

 

馬鹿、と言い終わる前に。さらに巨大な炎塊が部屋の中央で大爆発した。

 

 

 

―――ボゴォォンンッ!!

 

 

火が溢れんばかりに飛び散った。望外の大音響と衝撃が床と壁とその場にいる全員を打ちつける。

五つの影が炎の中から飛び出した。熱波に飛ばされた身を反転して着地する。靴底とスーツから摩擦以外の煙が上がった。

 

「おい馬鹿。悪いのは眼か、頭か? 今、僕を狙っただろう?」

 

「オーイ、そいつぁ被害妄想だぜ。別に誰も狙ってねーよ。当たってねーだろ、テメーら全員」

 

「…………この程度。誰が喰らってやるものか」

 

「だからといって、結果だけで語るべきではない」

 

「俺らに当たっちまってたら、言い訳にもなんねぇじゃねーすか。そんな意味すらねーですけど」

 

奇しくも、それそれが自分の射程内に敵を収めたまま立ち上がった。

祝詞は全員を自己領域に捉えている。輝炎の身体からは湯気が立ち昇り。戎呼はまだ転移可能な焼けてない場所を探り。海鴻は少なくなった手持ちの水を全て両手の刀に。ラグルは一向に変化を見せない。

メラメラと燃えながら床を踊る炎に、全員の影が揺らめく。相手の腹の探り合い、能力支配の奪い合い、機先の制し合い。全てをひっくるめて各々が構える。祝詞の指が光の尾を引いて動きかけ、

 

 

「―――やめな

 

 

唐突に点いた照明に、全員の動きが止まった。

 

ノッてたのに気分台無しだし。どうしてくれんの、なぁ?

 

何日間も水一滴飲まなかったような、しゃがれた声がホールに響く。

炎上する扉の前で体育座りしていた人物が、うんざりした様子でイヤホンを外した。

 

 

 

 

 

 

輝きを取り戻した照明下、その人物は眼に見えて異彩を放っていた。悪目立ちしていた、と言い換えてもいい。

立ち上がった小柄な身体を覆っているのは真っ白なウィンドブレーカー。所々に引っ掛けてある様々な色彩のアクセサリをビニル素材がテカテカと反射していた。サイズが二周りは大きいのか、服に着られて裾を引き摺っている。中にシンプルな黒いセーターが見えたが、首から下げたネックレス(というか大量のキーホルダーを連結させたもの)で隠れ、下地がよくわからない。

左右に分けた緋色のショートヘア。二本の僅かな前髪だけが大きな帽子からはみ出ていた。

 

 

 

 

誰? って顔してるじゃん。でも教えてやらないし。ってのは、もちろん嘘。後でちゃんと教えるよ

 

手首や、カーゴパンツから伸びた足首にも首と同じものが鎖のように巻かれてあり、ジャラジャラとキーリング同士が擦れて独特の音を立てていた。

その所作に敵意や殺気は無い。だからこそ、祝詞は確認することにした。

 

「君、動かないでくれ」

 

祝詞はひとまず銃口をそちらへ向けると、懐疑的な視線をラグルへとぶつけた。

 

「知らない子供がこんな所にいる。何かがおかしいんじゃないかい?」

 

「詳しくは本人に聞け。二度目は言わせるなよ」

 

おーい」

 

「!」

 

反射的に銃口を移した時、既にその声の持ち主はラグルのすぐ傍にいた。

瞬間転移を疑ったが、戎呼が動いた気配はなかった。ならば、この少年の能力ということになる。

 

陰口叩く時以外は当人の眼ぇ見て話せって習わなかったかーい? ん

 

「……そうだね。目上との言葉遣いを習わなかったのかい? 君は」

 

金糸雀の瞳が下から掬うように眼上げてくる。相互に対流する空気は決して親善的なものではない。

火花が散るような視線はすぐに外された。少年はモニュメントのようにそこに在る男の背をポンと叩き。

 

統地卿(ラグル)”。まずは黙ってな。得意だろ?

 

「…………ふん」

 

無遠慮な行動に、しかしラグルは何もしなかった。それだけで、少年の立場が彼と対等かそれ以上だとわかった。

 

此方彼方(カイフゥ)”。来な

 

御前(おんまえ)に、なーんてね」

 

戎呼が間を置かず現れ、海鴻もそれに並ぶ。

 

海蟒蛇(ハイフォン)”。火を消しな。コレやるからさ

 

少年は首に下げたキーホルダーの束から三つを無造作に千切り取ると、それを海鴻へと渡した。

 

「かたじけない」

 

彼はそれを手の中で全て砕いた。プラスチック製と思しき外見に反し、陶器かガラスを落とした時のような音が鳴った。

破片全てが地面に撒かれ、ドロリと溶ける。赤く変色した液体はすぐに透き通り、大量の水へと変化した。

それを靴越しに操る男の両手から、霧のように濃い水蒸気が噴き出す。冷ややかな風が炎上した床を吹き抜け、攫うように炎を消していく。

祝詞は冷静にそれを見下ろして、

 

道具使い(スミス・ノゥレッジ)か。汎用性は高いが攻撃力が低い、総じて援護向きの異能力(オーバースキル)だな」

 

「よく解んねーが、お前の能力みたいに何でも出来るってことか?」

 

輝炎の感想は単純だが的を射ていた。

 

「どこまで出来るかは疑問だけど。転移と創水の二種類だけとは思えない。考えつく限りの警戒をしたほうがいい」

 

 

勘違いされがちだが、道具使いという呼称は能力の使い方の大別であって、能力の種類ではない。

凪の人形や少年のキーホルダーのように、物質に能力を封じ込めること自体は持続力が高い能力者なら難しいことではない。

重要なのは、少年が作ったアーティファクトを彼自身と海鴻の両方が使用した事実だ。通常のアーティファクトは個人専用で、唯の第三者之瞳(サザン・アイズ)のように使用者が限られている。その例外が、道具使い(スミス・ノゥレッジ)。道具のモデルとなった系統者と、作った自分自身の両方が同じアーティファクトを使える能力者の呼称である。Aランク以上の持続力と精密動作性、コントロールを持つ異能力であることは間違いない。

製造者自身が様々な性質の能力を使えるということは、輝炎が言ったように何でも出来る。だが、祝詞のように即座に書き換えるのとは少し意味合いが異なる。

アーティファクトである以上、手持ちの分しか使えない。代わりに、自身が傷ついても他人に使ってもらえる。それだけでも祝詞とは大分違うのだ。

 

 

さて―――」

 

こちらの視線を無視して、少年はラグルと海鴻を指差して睨んだ。

 

二人とも何やってんの? 超能力封じられながら殺り合うってアンタら馬鹿かい? 自殺願望でも持ってるなら別に止めないけど

 

「実際は止めちまいましたけどね! あっはっは! はー、すんません、睨まねーで下さいよ。いや、マジで」

 

口を挟んだ戎呼を三者が睨む。

 

元気有り余っててご苦労さんだけどさ。いい加減時間の無駄はやめな。見てるコッチの方が疲れちゃうし。なぁ?

 

「俺に振らねーでくださいよ。反省すんのは、兄貴と旦那でしょーが。そうでしょう?」

 

二人とも、少し頭を冷やしな

 

「……御意」

 

「……こんなものは些細な座興だ。俺は熱くなってなどいない」

 

真面目くさって唇を噛む海鴻と違い、ラグルはそっぽを向いたままだ。

 

「仕事は俺流で全うする。問題は何も無い。貴様に文句を言われる筋も無い」

 

あーあー、そういうのウザイし。ダルイし。こんなことなら部屋に閉じこもっとけば良かったし。引きこもってドミノでも並べてる方がまだ有意義な時間だね。そう思わない? 思うだろ? 思えよ。なに、反抗期?

 

「黙れ。一言一句が耳に障る」

 

アハッ。なに? おじさん怒った? アハハッ。ギスギスした雰囲気出しちゃってさぁ。まさに犯罪者って顔してるじゃん

 

「……痛い目が見たいようだな。貴様」

 

「口が過ぎるぞ、“統地卿”!!」

 

「いやいや、いーじゃねーですか。喧嘩するほどなんとやらでしょーが…………あ、なんでもねーです。ほんと! だから、睨まねーで下さいよ、もう! ……俺、こんな役ばっかじゃねーですか」

 

あーあー、もういいから。悪かった、つついたコッチが全面的に悪かったし。うんうん、そうそう、口より手と足をもっと動かして頭もよーく回しな。みんな大人なんだから、手本を見せなきゃダメじゃん。つーか、もったいぶってるんじゃない。さっさと仕事しな」

 

「ふん…………言われなくとも。これ以上、些事に付き合う気は、無い

 

無い、と言い終えた時。背を向けたラグルへの不審と会話からの脱力が、油断へと繋がっていた。

乾いた靴音と同時。眼前に岩壁がせり上がり、視界を塞いだ。

 

「っ、逃がすな!」

 

牙によってかち上げられた銃身から手を放し、祝詞は強烈な蹴りを、輝炎は拳を壁へと打ち込んだ。

図ったように崩れた壁の向こう、既にラグルの姿は無かった。完全に姿を消し、移動の余韻すら残さない。こればかりは、流石としか言えない気配の絶ち方だった。

 

どうして素直じゃないかなぁ、アレは……」

 

一部始終を見ていた少年が首を傾げつつ、消えた男を揶揄する。銃を拾う祝詞に無防備なまま微笑む様は余裕すら伺える。

恐ろしい程の度胸とそれを支える芯。その独特の佇まいに、既視感が現実味を帯びてきた。

 

「君も、『赤き雪』なんだね……」

 

「―――アハ。ビンゴぉ・・・・・・大当たり

 

「何もんだ、テメェ?」

 

輝炎は低い声で尋ねながら、敵として認めた相手に炎を向けた。

対して、少年は干上がったような声で、あっさりと告げた。

 

 

「“赤き雪(レッド・コーパスル)”、名前はハーネス

 

 

イタズラがバレたような笑みから、鋭い犬歯が覗いた。

 

仲間内じゃ、それで通ってる。解釈は自分でしな

 

祝詞は今、完全に理解した。対して、輝炎は死人を見たように青ざめている。

 

「オイオイ……俺は聞いてねーし、解んねーぞ!」

 

「……いや。ドレットに息子がいたなんて僕だって初耳だ。でも今は、現実を認めよう。そうしないと多分死ぬ、僕らが」

 

よーく、わかってんじゃん

 

少年は、“赤き雪”の称号を名乗った。それは役と業をそのまま引き継いだ、ということなのだろう。

これはかつての私見だが。『赤き雪』と呼ばれる五人は個々の役割が決められており、完璧な分業が成されていた。

全てを統括し指示を出す、司令塔の“赤き雪(レッド・コーパスル)”。独断で動きかく乱する奇兵“統地卿(アース・エレクター)”。正攻法で攻防へと動く“海蟒蛇(リヴァイアサン)”。斥候として絶妙の場所へと二人を送る“此方彼方(スカンダ)”。最後に、残ったあらゆる障害を圧倒して薙ぎ払う“旋龍(テュポーン)”。

単純にして大胆なコンビネーションには隙がなかった。だからこそ、祝詞達は五人を完全に分断させることを重要視したのだ。

そして今、目の前には三人の『赤き雪』がいる。

 

祝詞と・・・・・・あー、輝炎? だっけ? 名前で呼ぶけど、別にいいだろ? 敬語使うの性に合わないし。一応、初めまして・・・・・・かな? 噂だけはかねがね聞いてるよ。アンタら評判悪ぃよ。超能力者のくせに国の肩もち過ぎだって」

 

「仕事なんだからしょうがない。これでお給金を貰っているからね」

 

うわっ・・・・・・仕事、就職、任務とか超嫌いだし。言葉にもしたくないよ。この話パスね

 

少年。ハーネスが、本当に嫌そうに首を振った。

 

とりあえず……さ、なんていうんだろ? 犯人として? 一通りやらないと、まぁマズイらしいし。働きたくないんだけどさ、顔覚えてもらえないのもなんかアレだし」

 

話し方、何気ない動作まで全てが気軽で、こちらの警戒心と闘争心を削いでくる。聞こえがいい言い方をすれば無邪気。だからこそ、少年はこの上なく異常なのだ。

 

でさ、こうやって向き合ってるとひとつ疑問が出ちゃうわけじゃん」

 

クスクス笑いながら、ハーネスは祝詞達を指差した。

 

 

アンタ達ってさ、殺してもいい超能力者だっけ?

 

 

何でここにいるの? と、首を傾げるように。

ハーネスはこう言いたいのだろう。

何で、生きているの? と。

そんな疑問は、誰もが主観次第だというのに。

少年はわかって言葉にしているのだ。

その証拠に、言い返そうとする輝炎より早く、後退する祝詞より速く。

 

どっちにしろ、殺すって決めてるけど!

 

白い外套の裾から噴き出した真っ赤な粒子が、爆炎となって二人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

やっぱり、コイツら『赤き雪』は最悪だ。冷や汗すら蒸発する炎の中で、輝炎は歯軋りした。

『赤き雪』という超能力者達は、外面的にはどうあれ内面では個々の繋がりが非常に強い。それは(あたか)も家族のように。そして、外部の者へは誰もが一様に排他的だ。基本的に自分達それ以外でしか物事を測らないからだ。根っ子は月日が経とうと人が移ろうと何も変わらない。今も、昔も。

輝炎が未だそうであるように。

 

アハッ、ビンゴォ!!

 

「いーや。大ハズレだぜっ、バカヤロウ!!」

 

ビュオッ! と、周囲の炎が渦を巻いて輝炎の両手の中に収まった。掌握した熱に自分の炎も重ねて撃ち返す。

 

熱っ!

 

ハーネスが手首に巻いたアーティファクトで、水晶のような透明の壁を作り防ぐ。だが、そんな薄っぺらい物で俺の本気の炎を防げるはずがない。

恐らく同じ系統のアーティファクトなのだろう。首や胸につけたキーホルダーが熔ける壁に比例して次々と砕け散っていく。全て壊せばいずれハーネスへ届く。火を見るより明らかな構図だ。

とんだ名前負けのくそガキだ。鼻で笑って両手に更なる力を込め、

 

「控えよ炎帝! 相も変わらず恐れを知らぬようだな!!」

 

横合いから振られた清流の刀が、放射した炎を断ち切った。祝詞は何やってんだ、と舌打ちする輝炎の腕に水が巻きついた。

使い手を追い振り返る眼前に、口を開いた蛇の顎。輝炎は臆せず灼眼で睨み返し、全身を炎で包む。拮抗した水が気化しつつも海鴻の手へと戻る。考えてみれば、戎呼よりコイツの方が好都合だ。

 

「全ッ然、恐くねーなぁっ! テメエが無駄に(かしこ)まってるだけだっつーんだよ!! そんなガキうっちゃってテメエは俺とだけ戦ってりゃいいんだよ!!」

 

「言うに及ばず。我が使命は唯一つ。“喚起炎帝”を討つべく、全力を以って闘うこと。誰も邪魔の入らぬ場所で死合えるのならば願ってもない事。戎呼!」

 

呼びかけに、戎呼が祝詞の銃弾から逃れながら転移してきた。

 

「二人とも、動かねーでくださいよ」

 

海鴻が消えた直後。背中を押すような感触と共に、輝炎の見る景色が一変した。

(はかりごと)の苦手な輝炎だが、奇しくも祝詞の思惑通り、赤き雪分断に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

残された祝詞をハーネスが犬歯を剥いて笑う。

 

ひとりぼっちになったねぇ!

 

「お互い様じゃないかな?」

 

足を狙った銃弾を透明な障壁が弾いた。

ハーネスがキーホルダーを砕く。赤い輝きが朝露のように溶け、次の瞬間斬撃じみた鋭利な風が祝詞のスーツを掠める。

転げるように回避する。もちろん前に向かって、だ。

絶対に外さない距離まで近づき、ソーコムを構える。だが、広く放射された衝撃波に照準がブレる。構わず発砲した。

銃弾が正面に移動した盾で防がれる。予定通りだ。

祝詞は距離を詰めると、そのままハーネスの横を駆け抜けた。少年の眼が追ってくる、だが身体が追いついていない。

 

 

 

      ―― 力を増す力が在る

 

 

 

蒼い光だけがハーネスの瞳に映った。

 

あ?

 

ハーネスの視界から祝詞は完全に消えた。

床にキスできるほど前屈した姿勢から片手で身を倒立させ回転、跳ね上げた足でハーネスの脇腹を、

 

 

―――ドゴンッ!!

 

 

およそ肉体から発するとは思えない衝突音がした。ハーネスの身体がくの字に折れる。

筋力強化された祝詞の蹴り。しかしハーネスは堪えた。恐らくその身に纏った服自体が防護強化のアーティファクトなのだろう。でなければ肋骨が全て砕けてとても立ってはいられないはずだ。

綺麗に反転して立った祝詞を、隈の浮いた眼が睨む。

 

い、だいっ、ぐぅぅ。そ、れ、パクリだし! ムカついたねっ!」

 

ハーネスの指先がマニキュアのように赤く染まる。獣のそれに酷似した爪が壁を削りながら祝詞の鼻先へ迫った。だが、軽く首を振ってかわす。がむしゃらに振られる腕を掻い潜り、グリップの底で頭を殴りつける。しかし、防護の施された帽子に逆に弾き返される。

 

ウザイし! さっさと終わりなぁ!!

 

横殴りに弾けた赤光がガードした腕ごと祝詞の身体を壁に吹き飛ばした。

追撃に振られた爪を身を屈めてかわす。ハーネスを蹴りで突き飛ばし、祝詞は埃を払って起き上がる。

 

「言葉使いが酷いな。教育した奴の顔を見てみたい、けどまたにしよう。今日は殺されに来たわけじゃないんだから。平和的にいこうか」

 

なんだいなんだい? まさかここまで来て話し合いでオチをつける気かい? アハッ、スカしてないで空気読みな二枚目ぇ。そんなネタ、今時笑えないだろ!!

 

ハーネスが大きく振りかぶる。その手には引き千切った飾りが数個握られていた。大技ゆえの隙を祝詞は見逃さない。

石畳を砕く脚力で壁を蹴りつけ、一瞬でハーネスの背後に周った。

 

ぐっ・・・・・・!

 

振り返った首を右腕だけで極め。

 

「動けば首が折れるよ」

 

ガッチリと固めた。空いた左手は、

 

なんか背中に当たってるし・・・・・・

 

「当ててるんだ。拳銃をね。と、これで話を聞いて貰えるかな?」

 

あーあーもう。聞ぃーてるよ。続けなぁ

 

観念したのか、ハーネスは両手をひらひらさせながら脱力した。祝詞は拘束を緩めないまま耳元へ早口で言った。

 

「僕達は普通の警察とは違う。捜査協力と資料交換、国外から逃亡した犯罪者の調査、捜索と引き渡しが主務だ。ICPO(国際刑事警察機構)に許されている権限に、強制捜査権と逮捕権は無い。が、ことが超常犯罪となれば話は違ってくる。超常犯罪を未然に防ぐことは、全てに優先する急務なんだ。悪いけど、投降してもらうよ」

 

ちらりと、黄色い瞳だけが振り返る。眉をひそめ、

 

ふぅん。もしさぁ、捕まるのなんかイヤだーっ、とか言ったらどうなるわけ? ほら、見ての通りまだ未成年だし」

 

「子供を躾けるのは大人の義務だからね。キツイお仕置きが必要なら、するだけさ」

 

アハ、と。少年の口からカラッカラの笑い声が出た。この状態では身を揺するだけで首に痛みが走るはずなのに、全身で愉快痛快と笑っている。

 

絶対できないね

 

「出来るさ」

 

やってみ

 

「残念だよ」

 

拳銃をしまった左手で取り出したのは特別製の手錠だ。黒と銀の中間色に鈍く輝く輪が二つ。はめられた者の異能力の発動を妨害するアーティファクトだ。

 

「昔、言いたくて言いたくて堪らなかったけど言えなかったことを、今こそ君に言うよ。『赤き雪』、国家反逆罪で、逮捕する」

 

勢いをつけて腕に錠をはめようとした、まさにその時に。

 

 

「―――本当、こんなこと言いたくねーんですけどね」

 

 

ガキッ、と。

 

「何やっちまってんです? 大将」

 

手錠と腕の間に、小刀とその持ち主が転移して割り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

あとがき

第五十話完。

約一年振りです。お久しぶりです。

いつもサイトへ来てくださっている方、有難う御座います。

初めて来てくださった方、初めまして。

成人を迎えた方、おめでとう。

久々です。超久々です。待っていてくれた方にこの場を借りて感謝を申し上げます。

小説サイトのはずが、イラストや動画なども手掛けた複合サイトへと変貌していく様を遺憾に思った方もいるでしょう。

ですが、これまでの回り道が全て無駄だったとは思えません。いい経験になったと思い、小説へと気持ちを打ち込む所存です。

 

前回のあとがきで書いた通り、今回“赤き雪”が登場しました。『道具使い』なので、先代とはかなり戦法が違います。

ちなみに、先代はドレット。今回のはハーネスと覚えて頂くと、読むのが楽でしょう。設定資料に目を通して頂くとなお解ると思います。

 

次回も戦いの連続です。現在、祝詞vsハーネス、戎呼。輝炎vs海鴻。

まだ戦闘に参加していないキャラが多くいます。ですが、徐々に戦闘は激化、多面化していく予定です。

 

さて、話は変わりますが。この小説は科学的ファンタジー、超能力バトルというジャンルなわけですが。設定が妙に細かいことにお気づきでしょうか。

私が設定、特に超能力を考える上で好きなことは、当然その能力をいかに活かすかということですが。

逆に、いかに封じるかということを考えるのも楽しみの一つです。

最強の能力というのを考えた場合。次にそれを破る能力を考えます。あれ、矛盾してね? と思うかもしれませんが、そこがこの小説の特色です。

ジャンケンしかり、五行説しかり、物事には相性があります。人間にもいえることですが、これを模索するのが意外と面白いのです。

ですので、新しい能力が登場した時は、是非それを破る能力、弱点を考えてみて下さい。きっと楽しいですから。以上です。

 

正直、次の更新がいつになるかわかりません。それでも、頑張るとしか言えません。頑張る! 私、がんばる!

感想お待ちしております。

 

 

 

 

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